遠い故郷、バンコク ~by吉田~


バンコクは出会いと別れの街。
世界中の航空便が発着し、旅の中継地、旅の拠点となるこの街は、バックパッカーにとっても一度は必ず通過します。
バンコクから東南アジアを周遊する旅人、中国から陸路で辿り着いた旅人、ヨーロッパへ向かう途中にストップオーバーする旅人。
そんな貧乏旅行者が集まる「安宿街」がカオサンロードとその周辺です。
沢木耕太郎の「深夜特急」に憧れた僕は、当然その周辺の一角に宿を取りました。
延べ2ヶ月半もその宿にいたので、今まで出会った旅人や沢山の新しい旅人とすれ違います。
一泊300円弱のその宿では、タイ語しか喋れないママさんと、一階で経営しているタイ式マッサージの従業員数人が、
滅多に来ないお客さんを待って日がな一日だらだらとしています。
僕も他の宿泊客たちとそこに混じって、ぼーっと道を眺めたり、隣の屋台街で食事を取ったり、近所のネット屋でメールしたり、たまーに思い切って街を観光してみたり。
何ヶ月も流れに流れて旅をしてきた身にはとても良い休息所でした。
ママとも言葉は通じないけれども仲良くなり、時に何か伝えようと必死にタイ語でまくし立てられ、
理解できないことをもどかしく感じながらも「そうかそうか」と相槌を打つ、ひたすら平穏な毎日でした。
しかしそんな日々も、僕自身の帰国という終わりの日が来ます。
最後の夜、知り合った仲間たちが集まって送別会をしてくれました。
シンハビールやメコンウィスキーでべろべろに酔っ払った僕は、気づかないうちに寝てしまいました。
その夜僕は、泣きながら宿の仲間に抱きつき「帰りたくない!」とすがりつく夢を見ました。
翌朝起きてその夢の話をすると、
「お前、それ夢だと思ってるの?」
と言われました。
一年の旅は長く、途中何度も日本が恋しくなって、早く帰りたいと何度も思いました。
無意識の中、帰りたくないという思いがこれほど強くなっているとは思ってもみませんでした。
でも、旅には終わりが来るのです。
ママは最後に僕に昼食を作ってくれました。
また涙が出てしまった僕を抱きしめながら、
「お前はここの一員だよ。いつかまた帰っておいで」
と言ってくれました。
帰国して日々忙しく過ぎていき、まだタイに「帰国」することは叶わないですが、
その宿の壁にはまだ、僕を含めたその時の仲間たちの写真が飾ってあるそうです。
その宿にいたこと、ママや仲間たちに出会えたこと、旅で経験した全てが僕の宝物です。
パンラム
そんなタイの屋台で食べた、南国ならではの美味しいエビスープ「トムヤムクン」。
これを夏らしく冷製にして細めのパスタ「カッペリーニ」を加え、冷麺スタイルでご用意しています。
残暑が続くこの季節に、ピリッと辛いスープパスタとシンハビールで遠いバンコクを感じてみませんか?